本日六本木ヒルズにて夕食を頂き候。
蚯蚓の知人が懇意にしている蕎麦やへ本日出向いた次第である。
本店は柏にあり、現在は箱根に支店がある。
もう昔に閉店してしまったが、かつては恵比寿にも支店があった
静かな有名店である。
数寄屋橋次郎の支店もあるこのゾーンの店は、
巷で一世を風靡した旨い店ということで、意地悪く言うと、
六本木ヒルズの話題の一つとして、半ば強引に出店を強いられた一画と
言っても過言ではない。
とはいえ、蚯蚓は運良くこのヒルズへの出店前に、人に連れられて、
神田のパイ屋、茅場町のてんぷら屋などオリジナルの店を訪ねており、
非常に親近感の沸く一画とも言える。
今回は、蕎麦屋といいつつうどんが美味しいという、
この店に馴染みのある知人の勧めで出向いた次第である。
店へ行くとビールで軽く喉を潤しつつ、豆腐の味噌漬け、
あら挽きのそばがき等、つまみを知人のお任せで発注。
酒と共に皿が次々と来た。
豆腐は麹に漬けたものや粕に漬けたものなど、舌触り、風味が異なる
酒のあてに最適の一品。

特筆すべきはあら挽きのそばがきで、ぷっくりふわっとしつつ、
とろっとしたそばがきは、甘味と蕎麦の風味のしっかりした
味わいがあるにもかかわらず、
粉末まで挽かないお陰で噛むほどに旨さが更に一味一味でてくる感覚に
襲われ、かける出汁つゆの旨さも手伝って、
さらりと食べてしまう不思議な旨さである。
ぶぶあられの如く、蕎麦の実の散らしてある卵のスフレは、
洋風の茶碗蒸しの食感が心地よい風味豊かなグラタン風の一皿。

その他、にしんやもずく、海老、山菜など、どれも主人のこだわりで
集められたちょっと素朴でいながら凝った個性的な肴がおもしろい。

目当てのうむどんは納豆も入った豪快な冷たいうどんなのだが、
納豆が豆の旨味が程よく臭すぎず、むしろ一緒に入った削り節が薫り高く、
葱も辛臭いというよりは、青い葱の香りが前に出る良いもので、
ひとつひとつは癖もあって、家庭ですると、
どこか強くひきたってしまうところが、玄人の仕事と云わんばかりに
一つの旨味と化す的確なバランスで出されている。

従って、良くかき混ぜてずるりとすすると、先述の薬味たちが
よくある稲庭うどんより細くて角ばったコシの強い麺と一丸となって、
喉越し良くいただける「うむどん」と化す。
ここからは一気にすすって噛んでの繰り返しで、
あっという間に食べ終えてしまう。後を引く旨さである。
この店の良さは肴などの個性的な加減もさることながら、
器やテーブル、内装も独特でいながら手づくりのぬくもりや技を感じる
個性的なもので、そういった器に盛られて出てくる皿の楽しさも
味わえるところである。

正直、肴のフルコースの割にうむどんのために酒を控えてしまい、
ちょっと肴に申し訳ない心地になってしまったが、
いろんな食器や内装が折衷で個性的でいながら調和が取れている点で、
蚯蚓は料理が運ばれてくる間にも楽しい心地になる。
今度は柏や箱根でも一杯引っ掛けたい心地にさせる、
一軒一軒が個性的で不思議な蕎麦屋である。