1階はいまどきのバー風の店が入っていて、
一見すると蕎麦屋などありそうに無い印象を受けたが、
連れられるままに、そのビルの階段を上るとその店の入り口が現れる。
中は想像以上に広く4人がけのテーブル席や座敷席などゆったり座れ、
客が少なかったせいもあるが、静かで良い。
メニューを見ると、とろろの蕎麦やら、
磯辺揚げがあり、なにやら山芋の旨そうな雰囲気が漂うので、
好物の玉子焼きと共に山芋のづけを発注。
ビールを引っ掛ける間に運ばれてきた。

短冊状に切られた山芋は醤油の潮っけの香りが心地よい一品。
しゃくしゃくと噛み解くほどに、とろっともったりとした食感がきて、
日本酒でそのほどける食感を断ち切り、また一口。
ちびちびやるのにうってつけである。
三つ葉のおひたしやら、玉子焼きやら頂くうちに話も弾み、
そろそろ〆の蕎麦を発注しようということになった。
暖かい蕎麦もあり、毎度の鴨なんばんと思ったが、
季節物であることをきちんと守って、今は鳥なんばんのみとの事。
代わりに頂いたつまみの旨さから、おかめそばを発注。
つまみも酒もいよいよ切れる頃におかめが運ばれてきた。
椀に顔を寄せ、クンと香ると具と蕎麦の間に敷かれる海苔の香りが
出汁の醤油の香りと混ざって実にほっとする。
その心地に引っ張られて思わず汁を一すすりしてしまう。

想像を裏切らない具の美味しさ。
かまぼこもほどよく出汁の水分を含み、温かさにより、
魚の身の香りも発って、むっちりした食感が来た後に
嫌味な塩気もなく蕎麦へ向かうことができる。
麺自身は半生のような食感で、
派手な香りの発つ類ではなく、地味ながらも全体のバランスの良い
きれいな一杯という印象。
新そば、鴨なんばんの始める季節を尋ねたところ、11月ごろとのこと。
またその頃に食べに行きたいという気持ちにさせる
六本木という街の雰囲気とは裏腹な背伸びをしない蕎麦屋であった。