世田谷線松原駅からしばし歩いたところにある。
玄米を使ったチャーハンが有名らしく、食べた知人が美味しかったので
本日行きたいということで、出向いた次第である。
混雑時にはそこで待てそうなバーカウンターを横目に奥のテーブル席へ通される。
店内は柔らかい照明に和中折衷のモダンなデザインが施された内装で、
若い客のみならず、年輩客も目立つ落ち着いた雰囲気の店である。
広東の郷土料理というカテゴリーがメニューに存在するが、
白金豚を使うなど、ちょっとしたイタリア料理店のような皿の名前の付け方をしている。
残念なことに目当ての玄米チャーハンはメニューから消えていたため、
迷いながらも別皿を発注。
バーカウンターが存在する創作中華系らしくワインなども豊富に存在するが、
20年ものの紹興酒があるということで酒は迷わずそれを発注した。
紹興酒はグラスのせいもあるのだが、良質のシェリーのような軽い口当たりで、
風味は花梨のようなしっかりした果実の香りがして美味しい。
一皿目の穴子のピータンソースの揚げ物は湯葉様の薄皮に包まれた穴子のフリットで、
もっちりしっとりとした食感と旨味がしっかり来る。
そこにピータンの黄身の風味のしっかりした
マヨネーズ風のソースが軽くあしらってあり、なかなか美味しい。

季節野菜と春雨の南乳土鍋の煮込みは百合の蕾の甘みやタマネギの甘みに
黄ニラや白ネギの風味が絡んできて、
これがしっかりととろみのついた春雨スープに食感のアクセントとしても働いて、
どの食材が主役と言うことなく協調して一つの皿となっている。

五目チャーハンは丸み帯びてぷっくりとした歯ごたえある米の食感を大切にした
ハムの味わい豊かなチャーハンで、その歯ごたえと親指の一関節分くらいの大きさの海老が
またもや適度な食感と風味のアクセントとなって飽くことなく頂ける。
特筆すべきは鶏肉と海老と卵白を使った蒸しものの皿で、
鶏肉と海老とグリーンアスパラガスなどの醤油風味の餡の下に白い豆腐のごとくに
卵白の蒸したものが潜んでおり、言うなれば”卵白の茶碗蒸しの中華餡かけ”である。
瞬間卵白だと感じるふわっとした茶碗蒸しと、
オイスターソースをちょっと感じる醤油風味の中華餡が
絶妙な優しい味わいを醸し出すなかに、
鶏や海老のしっかりした旨味が噛むと絡んで、
それが消えてはまた絡んできてと、いささかやみつきになる美味しさがある。

その他葱そばを頂いたが、軽い油で素材の良さが感じられる繊細な
日本人好みの料理である。
軽い油、塩味ベースで、醤油やオイスターソース、XO醤系で風味に奥行きを
つけるという手法が料理全般の傾向で感じられた。
いろいろなソースで炒めることがメニューに書いてあるが、
素材こそ違えど、土鍋料理、蒸しものの皿での奥行きのある味の付け方の
類似性を思うと、いささか創作らしからぬところが否めない。
調理法の細かい使い分けのみならず、例えば辛味一つとっても冷たいとか、
しびれるような感覚等を熟知して組み合わせて、
個性豊かな皿を生み出してきた本格中華の性質が、
「胃がもたれない、軽くていい」という日本人の油を敬遠し、
軽やかな風味を好む嗜好性の波と共にどこかへ流されていってしまった様に
感じてしまう類の料理に感じた。
言葉足らずな蚯蚓としては”異質の中華料理”といった表現になってしまうが、
食感の良さや素材のうまさが感じられる皿としては親しみ易さがあるので、
この”繊細”で軽い中華料理のジャンルをきちんと名付けてもらい、
店に入る前に識別できないものかと思う今日この頃である。
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