鎌倉駅周辺の観光もほどほどに、一路江ノ電の長谷駅へ。
長谷駅は観光地という立地のせいか、魚屋と兼ねた蒲鉾の美味しそうな店や、
有名人のよく訪れるシナモンの香りが決め手のコロッケ屋など、
老舗の門構えの古風な店や、はたまた江ノ島周辺の海沿いの雰囲気漂う個性的な店など
バラエティーに富んだ店が点在し、独特の街並みを構成している。
目当てのリストランテはこのコロッケ屋の手前の路地を入り、
小京都の雰囲気を感じつつ暫く歩いた途中の民家の中にある。
庭の広い心地よいこのリストランテは、古い民家の改装を行って作られているため、
日本の民家の「造り」を残しつつ、テーブル席や装備は洋風で品良く現代風にまとめた
内装となっている。
豊富なメニューに目移りしながらも、シェフのお奨めを頼りにカルトで発注。
スプマンテと塩気が心地よいフォカッチャで長めの電車路の疲れを癒す間に、
早速一皿目のラルドとヒシコイワシのカナッペが来た。
程よくパンの熱でほどける食感になったオイル付けになった良質のラルドが
味の奥深さを出す役割をきっちり果たしながら、
香りのしっかりしたオリーブオイルと新鮮な鰯のほろ苦魚旨さと共に一体となって、
実にスプマンテやワインと合う。

魚介のフリットも衣が軽く、例えばイカでも普通のフリットのような重みがなく、
噛むほどに風味と旨味があって今まで食べてきた軽めのフリットとも異なる
料理のように感じる。また一緒に揚げられたセージの香りも相まって
その他の白身の魚も飽くことなく心地よく頂ける。

次にグリンピースとスミイカの皿。
新鮮な豆類特有のフレッシュな甘い香りと旨味が凝縮されたグリンピースは
イカ墨とトマトのこれまた新鮮な青酸っぱい香りに包まれて、口にほおばるほどに
イカの旨味に加えて、全ての香りが形容しがたい美味しさと化して襲ってくる。

その後の自家製の甘酸っぱい杏のようにも感じるドライトマトを使った
手打ちのパスタやメインの花鯛を新じゃがを焼いたもの等、
どの皿もスキのない南イタリアを思い出させる、
風味のしっかりとした美味しいものであった。
夕方入店した頃は写真を撮るのも一向に構わない静かな貸切状態であったが、
パスタの出る頃には女性客や若いカップルで全席が始終埋まる
人気リストランテと化していた。
美味しい料理と心地よいサービス、ワインにより結局、約5時間にも亘る
スローなディナーを堪能した。
ここは日本ではあるものの、南イタリアの滞在を髣髴とさせる
贅沢な時間の使い方をしに、またこの店を訪れたいと思う。