この店、蚯蚓は幼少の頃から馴染みのあるとんかつやである。
久しぶりに訪ねたところ、店のつくりが変わっていて、
昔はテーブル席があったのだが、カウンターのみになっており、
一瞬店主が変わったのかと不安にかられた。
味を確かめようと盛り合わせを発注。
発注してから肉の下処理をして衣をつけて揚げるのも全て見られ、
さらに不安は募る。
というのも、昔は調理場が見えない造りをしていて、
皿が出てくるまでに時間がかかっていつも謎に包まれていたのだが、
その理由が今正に目の前で解き明かされており、
食い入るように眺めてしまった。
そうこうするうちに、白飯がよそられ、汁物が出され、
いよいよ盛り合わせが来た。

ひれかつはまん丸としたみずみずしい肉厚なもので、
がぶりと食べると、さくっとしっかりした衣に卵の風味が見え隠れする。
ここに肉の旨味がふんわり押し寄せて、この一口で、
カツ丼の卵とカツに出汁ではなく肉汁が薄くかかったものを
ほおばったような感覚に陥る。
エビフライも海老の香りと旨味が引立つおいしい一品で、
コロッケも独特のタネの味わいをしていておもしろい。
主人は一言二言しか話を交わしただけでは蚯蚓と同様の天邪鬼に感じるが、
よくよく話すと非常に実直でいて、おもしろい。
聞けば独学でこの店のとんかつにたどり着いているらしい。
結局店のつくりが変わっただけで、料理人は変わっていないこともわかり、
ほっとした上、また食べたくなるとんかつを
己の記憶の引き出しの中から久しぶりに堀り起こせて非常にうれしい限りである。
今度来るときは肉の旨さを堪能するために、とんかつを発注したいところである。
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