駅の北側からすぐの線路に平行して走る道沿いにこの店はある。
田舎の蕎麦やを思わせるような木造の手作り感溢れるその店のたたずまいに惹かれて店に入る。
古い木造建ての学校をミニチュア風に再現しているカウンターや、
数多くの木と紙で作られた白熱灯の照明カバーが目に飛び込んできて、
この手仕事にまずは驚かされる。

圧倒されて暫くぽかんとしそうなところで、その2種しかない鰻丼か鰻重のいずれかの選択をせまられる。
蚯蚓は鰻重を発注。
今となっては大して違いがないらしいのだが、古くは鰻丼が庶民の食べ物として親しまれていたものを、
身分の偉い人たちが2段の重箱に入れてその一段にお湯を入れて暖かい弁当のようにして
食べるようになって今に至るといったような蘊蓄を教えてもらいながら鰻を待つことになる。
内装を十分に堪能した頃、鰻重が来た。
一口目は少々焼きすぎの印象を受けるのだが、食べ進むにつれ鰻の旨味分がタレの浸みた米と絡まり始めて、
上品な甘みと旨味を感じる際立った美味しさと変貌する。
よく見るとご飯がうっすらと透き通った青白い光を放っていて、実に美味しそうである。
実際米だけ食べても十分旨い。
これは秘密があると聞いてみたところ、実は発注してから釜で米を人数分炊いているらしい。
なるほど、旨いはずである。少し前に釜で炊いた飯をウリにした定食屋が話題になっていたが、
それもよくうなずける。
美味しい鰻重にはご飯の美味しさが欠かせない。
というか、ご飯が美味しいと鰻重が更に1ランク上のものになる。

鰻自体は最高に美味しいと言うまでには至らないのだが、
この鰻の脂身の旨味とタレが絡んだ米の美味しさは強く印象に残っている。
内装の楽しさもあるので、日本食に馴染みのない海外の客人を案内する時などは非常に喜ばれる上、
日本の米の良さを食事を通して紹介できると思うような店であった。