甘味を普段食べない蚯蚓には見慣れない張り紙が、目を惹いた。
「久寿餅始まりました」とは、「くずもち」なのだろうか。

小腹も空いていたのと、店の扉の硝子の雰囲気が良かったことから、
入店することにした。
店には想像以上の客がいるのと、店の雰囲気が実に心地よいことに
はっとさせられる。
大きくて毎年張り替えているような白紙の障子で店横の大窓は目隠しされ、
机や椅子を見ても組んだもので、すり減った机の足には畳まれた紙が
がたつかないように差し込まれていて、何気ない心遣いが、垣間見れる。
火鉢の上の鉄瓶からは常にやんわりと湯気が立ち、
その湯で茶を出してくれるのも嬉しいところ。
周りの客は随分とあんみつを発注するので、気になったものの、
今回は「くずもち」と小声で、発注。どうやらくずもちでいいらしい。
暫くしてものが来た。
鮮やかな鶯色の粉で、きな粉のものより食指をそそる。
一口頂くと、よくあるものよりもほのかな酸味の滋味深さや
心地よい米ぬかのような香りがきてなかなか。

粉や蜜のどっしりとした甘味はやはり茶がないと蚯蚓にはしんどいところであるが、
この餅との相性はよいのが蚯蚓にも感じられる。
その名前の由縁が気になるところであったが、今回はあまりの店の居心地の良さに
途中で探求心も飛んで、ゆったりと過ごしてしまった。
人形町には色々な和菓子屋が数多くあるのだが、
店の外からもその牛皮の品良い香りが漂う「寿堂」が蚯蚓の中では
圧倒的な美味しさという印象があった。
しかしながら、甘酒横町にあるほうじ茶の店の甘味のパフェに乗っている最中の
旨さや今回の店の心地よさなど、さすが古くからある街というものを甘味から
感じずにはいられない。
不勉強であまり知識のない甘味の世界であるが、
次回この店を訪れる時は、気になる人気のあんみつを発注し、
久寿餅の名前の由来を確かめたいと思った今日この頃である。