長い風邪の間に気持ち小食になった蚯蚓は専ら
暖かい蕎麦にご執心である。
浜町の蕎麦屋で暖かい蕎麦に開眼して、
過去にざるしか食べず、その後足が遠のいてしまった店も、
思い直して暖かい蕎麦を求め彷徨っている次第である。
この千歳烏山の蕎麦やも冷たい蕎麦は今ひとつ好みでないにもかかわらず、
つまみの美味さが秀でており、日本酒をあおって〆る店のひとつであった。
今宵はそのせいろのみを求める心を改め、鴨南蛮はいかがなものかと、
かもそば(暖かい)を発注。
相変わらずこの店は発注から皿が来るのが長いが、
それも解って、待とうと思って待つと、不思議となんとか待てるものである。
しばらくして皿が来た。

鮮やかな緑の映えるかも蕎麦である。
その緑はユリの蕾で、一口頂くと、さやえんどうの様なさっくりとした
歯ざわりで噛むほどに野菜の甘みがあって、実に美味い。
これまた歯ざわりの良い白いマコモダケも香ばしく風味があって、
よくある鴨蕎麦の濃い目の汁とは逆の色の薄い甘みの淡い汁である。
鴨肉は、気持ち薫香を感じるややレアなもので、
黒胡椒が薄味の汁の代わりに肉の臭みを引きうける役割を果たしている。
きのこの類も風味をしっかり放つので、肉と共に頂くとこれまた違った美味しさがある。
また蕎麦も冷たいものとは異なり太めに切った麺が汁を含み、
ずずっと頂くと鴨肉の香りが舞って一層食欲が増す。
硬めにゆでてあるのか、食感もしっかりあって食べ応えがある。
冷たい蕎麦が好みでなくとも、暖かい蕎麦は美味しいということもあるのだと、
痛感したひと時であったが、ともかく、この野菜の甘みやらさらりとした汁、
おきまりの肉団子は山椒の香りの豊かなものと、暑い夏に調子の整う一品である。
今までの鴨なんばんとは一味異なる鴨なんばんで
また目当てに食べに行きたいと思う今日この頃である。
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