両国寄りの両国橋のたもとに、猪のレリーフの看板が極めて目立つ店がある。
大きな店構えで、老舗風なのだが、東京生まれの蚯蚓は猪などの肉は縁がなかったため、
どうにも気になって人と連れだって入店す。
2階の座敷席に通された。
各部屋は旅館の個室のお座敷席のようになっており、蚯蚓が通された部屋には子鹿の剥製が置いてあった。
給仕をしてくれる仲居さんのような女性達も皆、和服を着ており、小旅行に出たかのような気分になる。
初めてということもあり、コースで発注。程なくしてお通しが来た。
煮込み風の味噌仕立てのお通しなのだが、モツの代わりに猪の肉を使って作ってある。
興味津々で猪の肉を口にしたが、食感はしっかしりた牛肉、
味は牛、馬の中間の独特の味わいをほのかに感じる上品な味で旨い。
次に八丁味噌仕立ての鍋に火が入り、まずは猪肉を投入してくれる。
ある程度肉に火の通ったところで野芹、しらたき、葱、豆腐を加え火の通った野菜から
食べることを仲居から勧められる。
猪の肉は十分に火を通してからの方が軟らかくなり、美味しくいただけるそうなのだ。
そのアドバイスに従いたいところであるが、天の邪鬼の蚯蚓は猪肉の鍋の中での変遷をたどりたくなり、
逐次様子見で肉をつまんだ。

火の通った直後は歯ごたえのある豚肉のような食感で、味噌の香りやら薬味で付ける山椒や
一味の香りとのアンバランス感はあるものの、そういうものだと思えばそれなりに食べられる。
しかし、野菜が煮えて来た頃の肉はカレー用の牛肉が柔らかく煮込めず筋張って堅い
と感じたときの食感に近く、味はまあまあとはいえ、食べるのにしんどい。
野菜も食べ終え、食べ頃の肉は牛肉の大和煮のようにほろりと柔らかく、
味噌やら野菜やらの味が馴染んだものが肉に含まれていて、実に味わい深い甘みで美味しくいただける。
その他鹿肉の刺身や狸汁も堪能したのだが、どれも肉の個性を堪能できて非常に面白い。

今回はビールやらご飯でこの鍋を堪能したのだが、通は上手に発注し、
最後に鍋にうどんを入れて〆にしているようだ。
確かに、この猪肉の出汁の十分出た真っ黒な八丁味噌仕立てのうどんはここでしか味わえないはずである。
森下の馬肉の店より一見値段が高く感じるが、出す量がこの店は多いので、
仲居の不親切を意に介さず、上手に頼み方を考えれば、森下の馬鍋と同じ程度の値段で
猪鍋を堪能できる印象を受けた。
今度はこのうどんを食べにこの店を訪れたいと思う。