先日人形町の寿司屋のおやじが浅草雷門前の道の蕎麦は中々、という話で出かけた次第である。
しかし土曜日ということも手伝って、普段行列など出来ていないであろうそば屋に数組並ぶ客がいた。
厳寒の中ここまでして待てない江戸っ子気質の蚯蚓は、気持ち新たに昼食の店を探す散歩に出た。
歩いてみると雷門通りから蔵前側のブロックに、気になる店が結構散在している。
何周かその界隈を歩いて、結局たなびく暖簾にいつもの通り惹かれて鰻を食すことにした。
入ると、机に埋め込まれた囲炉裏様のものがあり、鉄瓶から湯気が出て暖を採れる。

よくある鰻重や蒲焼きのみの店とは異なり、暖簾のごとくにぶらさがる短冊に
「こんにゃく」やら「みそまめ」、「もずく酢」等、
ちょっとしたつまめるものが綴られており、極めつけには「うなぎ酒」というのがある。
白昼から一杯引っかけたい心を鬼にして、こんにゃくと鰻重の中を発注。
こんにゃくは薄目の田楽風に切られており、醤油の香りがたつ出汁つゆが印象的で、
山形の玉こんにゃくを思い出させるような味わいである。
片手寂しくこんにゃくをゆっくりつつき、外の寒さも忘れようかと言うときに、鰻重が来た。

僅かにうぐいす色をした山椒は若い青みがかった香りのする香ばしさがあり、
少し脂分が強いふっくらとした鰻に通常よりも多めにこの山椒をかけて香りで脂っこさを断ち切り、
これにかこつけて一気に食べると美味しくいただける。
50円の肝吸いもたっぷりの量で、これらを食べ終えると実に腹がふくれ、
山椒の効用か体が暖かくなり軽い眠気に襲われる。

鰻の質や仕事が一級とは言い難いが、さすが浅草といった実に落ち着く内装で、
時を忘れて鰻を堪能することが出来る。
また山椒は遠慮気味にかけて、鰻の臭み消しを兼ねた引き立て役程度で頂くと塩梅がよいと
思っていたのだが、山椒の青い香りの強さに引っ張られて鰻を食べて旨い、
という一見アンバランスな食べ方で美味しくいただける鰻重に新鮮さを感じた。
鰻重は米、タレ、鰻、山椒の一見単純な組み合わせのものであるけれども、
そのこだわり方や食べ方によって、その先にある味わいに相当に違いの出る食べ物であることを改めて強く感じた。
それはともかく、鰻を比較的リーズナブルに堪能できるので、今度は吸い物の香り漂うこの場所で、
うなぎ酒と白焼きなどで一杯引っかけたいものである。