浜町駅から明治座を横目に甘酒横町へ向かう道の途中にあるビル風の建物に
間口の狭いそば屋の入り口がひっそりとある。
人形町で蚯蚓が足を運ぶ寿司屋の主人に勧められ、
どこかで聞き覚えのあるその店の名はともかくとして店に入り蕎麦をいただくことにした。
早速せいろそばを発注。程なくして、蕎麦が来た。
ちょこに鼻を近づけ、つゆの香りを嗅ぐにもとりたてて何があるわけでもなく、
疑心暗鬼に駆られながら特徴の細めの更科をわさびと共にひとすすり。
不安は一瞬にして「蕎麦の香りがこんなにたつのか?」という疑問と化す。

以前記事にした阿佐ヶ谷の店のように内装をきれいにした、
最近のそば屋は、わさびとは一緒に頂きたいが、
葱の方が勝って蕎麦が立たなくなるため最後のそば湯で葱は頂くことが多い。
またつゆも鰹出汁ががっちりきて、香り高いけれども塩っこいつゆのものが多い気がする。
この店はそういった傾向とは異なっていて、つゆはさほど単体での香りは立たないが、
蕎麦と共に口に含むと蕎麦の香りを立てつつ己を主張し、
葱と共に頂いても蕎麦の風味は一層変化してなお一層おいしくなる。
例によって量的に少ない蕎麦であったが、地味でありながら、
さらりと旨い蕎麦で、最近の派手なうまさを放つものとは一線を画すものである。
しかしどちらが良くてどちらが悪いということもないのだが、
蕎麦を食べたいと一口に言っても
その時その時で自分に合った蕎麦を頂く見極めは大切なのだと感じさせられた。
それはさておき、そこはかとない風味を持つこの蕎麦であれば
暖かいものも頂きたいところである。
鴨なんばんが短冊で店に張られているので、
次回はこの暖かいものを頂きたいと思った次第である。