店構えは老舗浅草のイメージより、一昔前のビジネスホテルやレストラン風の雰囲気。
ショーケースには元祖やきかつの説明が書かれている看板があり、
「西洋料理の手法を取り入れ、鮮度の良い少量の油で揚げる」
といった類のうんちくが書かれている。
いささか時代遅れ感のあるたたずまいでありながら、元祖と銘打ち頑なにその皿を出すとは、
なんとも粋な一面を感じ、入ってみることにした。
入ると熊の大きな木彫りが印象的なフロアに、
これまた昔の社員食堂の従業員が着そうな青色の制服を着た、体格の良い女性達が、
給仕を行う。
目当てのやきかつの定食は3つのランクに分けられており、
鉄板で出て来るという「特選」を発注。
ごはんやサラダなどが出されて程なくして皿が出てきた。
手慣れた様子で、鉄板にソースをかけ、じゅわっとした音と同時に
ソースが香ばしさを放つのだが、
その際服にソースが飛ばないように紙でガードする指示をてきばきと施される。
早速一口頂くと、厚めの肉を使ったヒレとんかつのイメージ。
普通より白っぽく、低温でゆっくり揚げたと思われる衣は鉄板にのせて
暫く経っていることもあり、さくっとした感じはあまり無いのだが、
外のうんちくの通り、確かに肉が水分を失わず、肉の旨味を程良く感じる。
とんかつの美味しさの概念を捨てて、はじめにかけたソースが衣をしっとりさせた頃に
おもいっきりほおばってご飯をかっ込むとおいしくいただける。

ご飯や豚汁に加えキャベツサラダもおかわり自由とあって、しっかり頂ける。
また特選のデザートに付くアイスを甘いものが苦手とあって断ろうとすると、
果物に変えてくれる臨機応変さも心地よい。
外観は時代から取り残された感が強い店であるものの、
そこから想像されるちゃちな味とは異なる庶民的なおいしさを楽しめるお店であった。